空中ブランコ:奥田英朗

徳島繊維卸問屋 山善のてるよ女将です。
今回は、奥田英朗さんの「空中ブランコ」
「ガール」や「ナオミとカナコ」を先に読んでいたので、奥田英朗さんのイメージがひっくり返りました。

「空中ブランコ」は5つの短編集

この本は、2004年に奥田英朗さんが直木賞を取ったものです。
もう14年も前の作品なのですが、まったく時代の変化を感じさせない作品でした。

この本の中には、「空中ブランコ」「ハリネズミ」「義父のヅラ」「ホットコーナー」「女流作家」の5つの短編があります。

短編といえど、一貫して登場するのが「伊良部一郎」という精神科医。
その患者さんがそれぞれの主人公になっています。
この、伊良部先生が曲者で、色白でデブというキャラクター。
しかも、注射大好きなんです。それだけでもおかしいでしょ。
そんな伊良部先生が、騒動を巻き起こしながらも、
気が付けば患者さんの状態が良くなっている、そんなストーリーです。

空中ブランコは、圧巻

本の題名の通り、空中ブランコは、サーカスの空中ブランコ乗りの男性が主人公。
今まで難なく飛べていたのに、急に飛べなくなってしまいます。

そこで、相談に訪れたのが伊良部総合病院の精神科。
一郎先生との運命の出会いとなるわけです。

太い注射を打たれながらも、伊良部と話す主人公。さて、再び空中ブランコに乗れるようになるでしょうか?
そもそも成功しなくなった原因は?
是非読んでくださいね。

ハリネズミ

全身トゲトゲになるハリネズミ。
大学を出てヤクザの世界に入った誠司は、まさにハリネズミのような男だった。
そのはずなのに・・・
いつの間にか尖端恐怖症に罹り、伊良部のもとを訪れることとなる。

尖端恐怖症なので、ナイフは使えない、お箸も使いえない。さんまもダメ・・・
ヤクザにとってナイフが使いないのは、本当に大変。
そんな誠司を治療できるのか?
ある日、対立する組の組員と話し合わねばならなくなり、なんとそこへ伊良部ドクターも同席することに。果たして落としどころはあるのでしょうか。

義父のヅラ

伊良部の出身大学同級生のドクターが主人公。
どうしても破壊衝動が抑えられず、伊良部のもとを訪ねてくる。
義父のかつらを引っぺがしたくてたまらなくなるんです。

もちろん、義父は大学病院のえらーい人。奥様のお父様です。
どうすれば、その気持ちをおさめられるでしょうか。

どうしてそんな気持ちになったのでしょうか?

もうその治療方法がハチャメチャで、笑えるのです。
もう、頭のいいドクターって面白いわ。
でもね、最後はホッとします。
そして笑顔になれます。
とてもいいお話でした。

ホットコーナー

トップレベルの三塁を守る野球選手が、「イップス」になってしまう話。
イップスとは、自分の考えていることが体に伝わらなくなって、違った動きをしてしまうこと。
一塁に投げると、わかっていても暴投してしまうという感じ。

若い花形選手が入団してきて、焦りもあるのだ。
そこでかかった医者が伊良部先生。
いつものごとく、治療のような遊びのような方法で真一選手に対応していく。

さて、坂東真一選手はどうなっていくのでしょうか。

女流作家

都会派作家が売りの愛子は、いつの間にか文章が書けなくなってしまう。
もしかして、以前この設定で書いたのではなかったか?!
そう思いだすとひたすら調べなければ書けない。
そこで伊良部先生の所へ相談に行く。
伊良部先生は作愛子の伝手で家になって、本を出版してもらおうと振舞うが・・・
愛子の書けない原因は何か。
そして、再び作家として書くことはできるのだろうか。

時代と共に人は変わる

どの主人公も懸命に生きているのに、ふとしたことでつまずく。
その、「ふとしたこと」が曲者で、簡単には解決できない。
それは、そこに至るまでの深いバックグラウンドがあるから。
いずれも表面に現れた症状は、きっかけでしかない。
それを解きほぐして直すには、心の奥に何が潜んでいるのか見つめねばならないし、
自分で気が付かなければ、解決できない。

トップとして君臨してきた人で、もいつの間にか、若い人がすぐ後ろまで来ている。
トップでいたい。でも追い抜かれるかもしれない。
いったいどうすればいいのか。

本当に人の気持ちの深いところまで描けていて、面白い小説だった。
私の知らなかった奥田英朗さんで、とても面白かった。
伊良部先生は超絶面白いし。

別の本も読んでみたいと思った。

 

 

 

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